空中庭園
![]() |
空中庭園 著者:角田 光代 |
この作品は、東京郊外のニュータウンで生活するある家族を描いた小説であり、
構成としては、章建てで各人物の視線を通して話が進んでいく。とても力のある作家さんで、どの人物の気持ちもよくわかる。
「うちの中ではみんな一切の隠し事を作らず、すべてを共有しよう」という大スローガンのもと、
夫婦子供2人から成り立つこの家族は、一見とても仲良くて明るくて、なんの問題なく生活を送っているようだが、
その実誰もが大きな秘密を抱えている。家族の誕生日にはみんなで必ずお祝いし合い揃って歌を歌っちゃうような家族。
娘の初潮やら息子の性の目覚めやらも皆で祝ってしまうような家族。うわー不自然!と思ってしまうような家族だが、それはこの家の母親の、こんな家族をどうしても作りたかった、そして
それを絶対的に守りたいという強い意志から成り立っている。それは彼女の生まれ、過去、何といってもこの家の祖母にあたる自分の母親への憎悪とそこからの脱却という重い覚悟の上の意志である。
暗いもの、醜いもの、臭いもの、さびしさ、かなしさ、憎しみ、嫉み。そのような一切合財のマイナスアイコンが存在しえないような世界を作り、守っていくことへの絶対的意思。
そして夫や子供もお互いにいえない感情や秘密を抱えながらも、あたかも円陣パスのように、この明るい家族を忠実に守っている。「隠し事をしない」というスローガンを盾として守られた隠し事や問題は知らずの間に複雑化し膨れ上がっていくのだ。
なぜならば、明るい笑顔を絶やさず、嘘や秘密を必要とせず、罪も恥も嫉妬も知らず、愛や希望にあふれ、なんら問題のない、そんな人間も場所も世界もありはしないからである。
そしてこの家の非常に多感で賢い子供たちはとうに気づいてしまっている。真実と嘘は表裏であり、光と闇も表裏であることを。
「隠し事をしない」ルールによって、各自のマイナス部がかえって隠され守られている状態はままあることだ。わたしなんかも、人間関係において、自分の明るくあけっぴろげで屈託なくよく笑うという人格のある一面を意識的に多めに出すことで、その奥には一切触れさせず一切覗かせないように振舞うことがあるし。
ただ家族の間ではいつもそれではしんどいし、できるだけ真摯でありたいという気持ちもあり、本音で向き合うこともある。
ただ、それでも案外伝わらなかったり、本音で向き合うのも実はすっごくしんどかったりするし、かえって何も言わないほうが実はわかってくれたりしていることもあったりで、家族って本当にやっかいだし面白いと思う。
あんな憎悪の対象でしかなかった自分の母親が自分の話をよそでしている。小説の最後のほうで、その一言を聞いただけで呆然とする場面があるが、そんなものかもしれない。祖母は祖母なりに娘を思っているが伝わらず、娘の真意や想いも祖母には伝わらないが、そんな一言だけでも救われる。そういうことが人と人との関わりにはあるのだと思う。
↑もしよかったら、クリックをお願いいたします![]()
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)






最近のコメント